〝2012年 襖カレンダー〟頒布のご案内

平素は振興会の活動にご理解とご協力を賜り有難うございます。

さてかねてより企画しておりました、2012年版〝襖カレンダー〟の下刷りが出来上がりましたのでご紹介させて頂きます。カレンダー製作は今回で6回目ですが、広報活動の一環として広くご活用頂きますよう、皆さま方のご理解とご協力を宜しくお願い申し上げます。なお画像や全体構成は、若干変更になる場合もございますので予めご了承下さいますようお願い致します。

2012年襖カレンダーについて
2012年版のカレンダーは〝本襖〟を理解して頂くために、組子骨の製作から、下張、浮け張りなど、最後の仕上げまでの製作工程を一年間のカレンダーにまとめました。これまでにない貴重な画像は必ずお役に立つものと思います。

オリジナルカレンダーは日本襖振興会の会員を通じ、施工店へ配布または販売致します。年末のご挨拶の品として、また秋から新年にかけて開催される各展示会や表具作品展示会などでの配布資料としての活用もご検討願います。また同様に、経師店・表具店様にも、たとえ5部10部でもご販売をして頂き、建具店や工務店、設計関係者などに広く配布して頂けますよう、お勧め願いたいと存じます。名入れは5部10部でも対応可能です。

頒布要領
体 裁 :A2判(594㎜x420㎜) 2ヶ月を1枚として本紙6枚と表紙で合計8枚綴り

:フルカラー印刷 用紙マットポスト135K 金具なしエコ仕様 ビニール袋入り

頒布価格  :1部1050円(消費税込み)

店名入れ  :別途費用(消費税込み)1部

スミ1色刷り :ロゴ・写真の使用は不可  使用フォントは指定のみ

支店名入れ等は別途お見積りします。

発送時期 : 11月初旬

配送方法 : 日本襖振興会会員さまへ、印刷所より直送致します。

申込方法 : 日本襖振興会会員さまへお願い致します。

申込締切り: 9月2日(金曜日)
価格を抑えるためにシーズン前に確定数で製作します。

以 上

以下のファイルからカレンダーの画像をご覧ください。
https://www.fusuma.gr.jp/topics/uploads/log/2012calendar.pdf

襖カレンダー2012´「襖」-千年の時を重ねて-

私たちが日常生活で使う耐久消費財で千年の時を超えて使用されているものにはどんなものがあるのでしょう。例えば、襖、明かり障子、屏風(びょうぶ)、畳、和紙、筆、硯(すずり)、墨、蝋燭ろうそく、着物などがあり、またそれらを作り出す道具類もそうです。そして、糊と刷毛はけを使い和紙を張って襖や明かり障子を仕上げてゆく「表具の技術」も千年の時を超えて現代に息づいています。ほとんど多くの耐久消費財は消滅していったか、または草履(ぞうり)が靴に、牛車や籠かごが車にとって変わられたように原形をとどめないほどに姿形を変えてしまっています。
しかし、そのなかでも襖や明かり障子は何故千年もの長い時を超えてほとんど姿形が変わらないで使われてきたのでしょう。産業革命が起こる以前の耐久消費財は襖のように和紙や木といった身の回りに存在する自然の恵みを原料にしていました。襖や明かり障子が単に自然素材でできているため、人や自然に優しいといった理由や、襖には調湿作用があり日本の気候風土に適しているなどの理由があるからと言って新しいものに位置を譲ってしまった他の消費財と区別することを説明するには十分ではありません。

「襖という概念」
古代の人々は人間を超越した自然の恵みや威力のなかに神の存在を意識し信仰してきました。そして、神を祀まつる場所を定めて神前に「みてぐら(幣)」と言われる大切なものを捧げました。その代表的なものは「ぬさ(幣)」と呼ばれる海や山の幸と共に木綿(ゆう)、苧ちょ麻ま、麻などがありました。木綿は楮こうぞ「古くは穀かじ」の樹皮の繊維で清流に何度も晒されることにより美しい白さになり、これで織り上げた物を衣服としていました。
ところで、工業デザイナーである向井修太郎氏はその著書「ふすま」の中で神籬(ひもろぎ)「神を招来する場所として四方の隅に棒状の物を立て、それにしめ縄を張って聖域を作る」は四方に柱を立てて空間を仕切って行く日本の建築の空間構成の原初ではないだろうかと述べられています。そして、しめ縄に飾る飾りには古くは木綿、飛鳥時代も末頃になると和紙で出来た御幣(ごへい)が使われるようになりますが、この御幣は太陽の光をかたどったものだとも、稲穂の光輝を象徴するものだとも述べられています。

「衾障子と襖」
ふすまが使われ始めた平安時代の住居である寝殿造りにおいて、ふすまは当初「衾(ふすま)障子(しょうじ)」とよばれていました。「衾」は布など寝るとき身体をおおう夜具(広辞苑)であり「障」は「さ-える」といい、さえぎる、へだてる、気にさわる(岩波古語辞典)ことを意味します。また、「字訓」では神聖な場所あるいは神の座を防ぎ守る意味があるとなっています。また、「臥(ふす)間」に由来するとも言われ,寝床とも言えます。寝殿造りの初期では寝所を帳ちょう台だいといい四隅に柱を立て四方に帳とばりをめぐらしたものでしたが、やがて帳から衾障子へと変わってゆきます。
ところで「気にさわる」の「気」は鎌倉時代までは「け」と読んでいました。その意味は「様子、気配、さらには異常な様子、病気」となっています。さらには「もののけ」の「け」にも通じています。たとえば、源氏物語に出てくる夕顔は「もののけ」におそわれて不意に命を落としてしまいます。当時は、病で急に命を落としたりすることも死霊しりょうや怨霊おんりょうの祟たたりであり恐ろしいことだったのです。これらのことから当時から衾障子は死霊や怨霊などをふくめて人の身に忍び寄る「け」を障(さえぎ)る役割があったのではないでしょうか。また、向井氏は寝殿造りの「しつらい」の設備である蔀しとみ戸(ど)、御簾(みす)、帳、几帳(きちょう)、衝立(ついたて)などは衾障子と違い、外と内を光も空気も風も行きかい、かつ間仕切りの機能をはたし見え隠れしながら奥へ奥へと幾重にも重なる空間のひだを作り出してると述べています。その衾障子がいつの頃から襖に変わっていったのかは定かではありませんが、襖は「衣へん」に「奧」と書きます。この「奧」は寝所を意味しています。「奧」には「内に入ったところ、おく」「奥深く容易に知りがたい事柄」という意味があり、また「奧おくつ城き」は墓所を、「奧(おきつ)棄(すた)戸(へ)」は棺ひつぎをあらわすなど神聖な場所の意味があるのです。
建築家の槇文彦(まきふみひこ)氏は日本の住居の空間の特質を「奥の思想」と考察されています。この「奧」の概念によって重層化された空間のひだが生み出されてくると述べておられます。そしてその濃密な空間体験は襖の比喩として玉ねぎの中に入って行くようだとも言われています。「忠臣蔵」の赤穂浪士が邸内の部屋から部屋へ襖を開け放って奥へ奥へと進む光景が思い浮かびます。この奧の概念を設定することにより比較的狭い空間を広く拡大させることを可能にしました。

「襖と障子と光」
襖は木の框と格子状に組んだ組子でできた「骨(ほね)下地(したじ)」に幾種類もの和紙を張り重ねて出来上がってゆくものです。ここで障子との違いを見ますと、障子は同じように組んだ「骨」の片面に和紙を一枚張って出来上がります。この障子は和紙を透かして外光を取り入れられるようにしてあるのです。それに対して、襖は「骨下地」の両面に幾重にも和紙を張って、最後に両面に襖紙(上(うわ)張(ばり)という)を張ることにより全体を包んでしまうのです。
障子は一枚の和紙で風を遮る一方、光を透かし拡散させています。しかし襖は、和紙を張り重ねてゆく過程で障子とは対象的に光を包み込んでゆく。最初の骨しばり(紙張り、縛り)の工程では光を通して組子がまだ見えていますが、和紙を張り重ねてゆくに従い透明度が弱まってゆき、だんだん消えて見えなくなっていくのです。はたからみていると和紙を張り重ねてゆくという単純な工程ですけれど、太陽の光を包み込むというか襖のなかに閉じ込めていくように感じられるのです。こうして出来上がった襖はふっくらとした柔らかい表情にしあがり新鮮で神聖な感じがするのです。
「張る」
和紙を「張る」という「張る」には「芽が出る、芽がふくらむ、膨ふくれる、はちきれそうになる」などの意味がありますが、同時に「春」にも通じます。近年は襖を「貼る」という表現が目に付きますが「貼る」というのは切手を貼るというように単に糊を全面につける、紙を貼り付けるというだけの意味で、襖の下張りの工程の「浮かし張り」(袋張りともいう)では、紙の周囲だけに糊をつけ全体に軽く水をひいて張ります。この「張る」という作業には太鼓のように「ぴんとはる、力いっぱいふくらませる、押し広げる」という意味があり表具の「こころ」があります。
表具の技はもちろん様々な工程の中で鑿のみや鉋かんな、包丁などいく種類もの道具を使い分けていますが、単純化すれば和紙や布を張るという作業の繰り返しです。この特質から建具職の仕事から分けて表具師(ひょうぐし) あるいは 経師(きょうじ)の仕事としているのです。

「紙」
私たちは経験から和紙が楮(こうぞ)や三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などの靭皮(じんぴ)繊維(せんい)からできることを知っています。しかし、紙のことが文献上最初に見られる和銅三年(610)つまり飛鳥時代の人々は紙が木の皮からできることを、そしてそれが木綿と同じ原料でできていることを知って、布とは違い張りのあるその白さにさぞかし神聖な驚きを覚えたことでしょう。そのことは、やがて木綿に変わり幣(ぬさ)として、幣帛(へいはく)として使われる様になったことからもうかがい知ることができます。
このように見てきますと、「襖」が千年以上の歴史を持つということは、原料を精選し、紙を漉き、紙を張る、襖を仕上げるという技が単に目に見えているというだけではないのでしょう。それは、森羅万象と一つになれるような自然を生きる心、自然の摂理を受け入れる力なのではないでしょうか。襖の骨、縁、引き手、下張りの紙や襖紙、それらを張る正麩しょうふや布(ふ)海苔(のり)すべて自然素材であり、表具の技術はその工程が紙との対話であり自然の法則を体得する精進の過程のように思われます。こうして出来上がった「襖」に私たちは凛とした気品や神聖さを感じるのではないでしょうか。